TOM FORD(トム・フォード)と言えば、今をときめく世界的ファッションデザイナーの一人です。
グッチやイブ・サンローランといったビッグメゾンのクリエイティブ・ディレクターを務め、ヨーロッパ屈指の名香に触れてきたTOMFORD(トム・フォード)。
自身のブランドで展開しているフレグランスもまた、“美の極み”と呼べるほど素晴らしいものばかりで、この世界観に魅了されている方も多いのではないでしょうか。
実はそんな『TOM FORD(トム・フォード)』哲学に最も深く触れることのできるフレグランスラインが存在します。
2007年から続く「TOMFORD Private Blend Collection(トム・フォード・プライベート・ブレンド・コレクション)」です。

出典:『TOMFORD(トム・フォード)』ビューティー・公式インスタグラムより
「もっと自由に」「もっとエレガントに」「もっとフレグランスに深い愛を」という、ファッションデザイナーの視点から見たフレグランスに対する熱い想いを具現化したコレクション。
コレクションのラインナップには、世界的大ヒット作品である「NeroliPortofino(ネロリ・ポルトフィーノ)」や「Jasmin Rouge(ジャスミン・ルージュ)」、2020年に発売されるやいなや大評判となった「BitterPeach(ビター・ピーチ)」などが名を連ねています。
さて、今回ご紹介するのは「TOMFORD Private Blend Collection(トム・フォード・プライベート・ブレンド・コレクション)」のひとつである「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」。
マスキュリンなボトルにマットなピンクが映える「ROSEPRICK(ローズ・プリック)」は、3種のローズが薫る“絵巻物”のような美しい香りです。
『TOM FORD(トム・フォード)』の愛する3種のローズとはいったいどんな芳香なのでしょうか。ここで詳しく解説したいと思います。
薔薇の饗宴

ROSE PRICK(ローズ・プリック)オードパルファム
トップノート:四川山椒、ウコン(ターメリック)
ミドルノート:ローズ・ド・メ(五月の薔薇)、ブルガリアンローズ、ターキッシュローズ
ラストノート:パチョリ、トンカビーン、トルーバルサム
発表年:2019年
調香師:ギヨーム・フラヴィニー
対象性別:ユニセックス
TOM FORD(トム・フォード)はロサンゼルスの邸宅に広大なローズガーデンを所有しているそうです。
薔薇の芳しさ、見た目の美しさに魅せられた彼は、自身のフレグランスラインでもローズをテーマにした香りを3つも発表しています。
「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」はその中でも最も生花に近く、そして“薔薇のトゲ”をも彷彿とさせる、まさに写実的なオードパルファムなんです。
「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」の日本語訳は「薔薇の一刺し」。
このネーミングがいかにも『TOMFORD(トム・フォード)』らしく、ローズをただの“万人受け香水”としない芸術性が垣間見えます。
さて、「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」という香りをもし絵画に例えるとしたら。
それは、オランダ出身で後にイギリスに帰化した画家、ローレンス・アルマ=タデマの『ヘリオガバルスの薔薇(1888年)』となるでしょう。
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出典:Wikipediaより
『ヘリオガバルスの薔薇(1888年)』は、花びら舞い踊る雅やかな宴、ではなく実はローマ史上最悪の君主ヘリオガバルス帝が、宴会の招客の上に何トンもの薔薇の花びらを落とし苦しんでいる様子を見物する情景なのです。
文字で見ると非道な行いですが、絵画の中では大量の薔薇の描写がとても美しく、人間も事物もすべて同等に描き込まれています。そのため、すべてのモチーフが等しい存在感で並んでいるので、不思議と緊迫感がありません。
「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」香りには、この手法と同じことが当てはまると言えます。
ローズ・ド・メ(五月の薔薇)、ブルガリアンローズ、ターキッシュローズといった「三大ローズ」の香料を贅沢に使いながら、トップノートの四川山椒とウコン(ターメリック)のピリッとしたスパイスがそれぞれの個性を引き出しているからです。
「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」にスパイスの要素がなければ、“幸福感あふれる香り”というような、ありふれたキャッチコピーのフレグランスとなっていたでしょう。
四川山椒とウコン(ターメリック)といったスパイシーな香料がここでの「薔薇のトゲ」と化しているところが、やはり『TOMFORD(トム・フォード)』らしい“毒”を持ったフレグランスと言えるのです。
シャープでモダンなローズ香水

さて具体的に「ROSEPRICK(ローズ・プリック)」の香りを描写しますと、それは「かなり生花に近い、リアルで立体的なローズの香り」となります。
四川山椒とウコン(ターメリック)のトップノートがかなり独特なので、最初は「?」といった疑問が生まれるかもしれません。
しかし、それらがミドルノートの「三大ローズ」と迎合することによって、刺激のある意外なフローラルノートに仕上がります。
これが「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」がただの“女性向けの甘いローズ香水”とはならない所以です。
実際「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」は写実的に作られており、芳醇なフローラル感に酸味やちょっとしたえぐみ、スパイシー感が絶妙に絡みついた、生花のようなリアルな存在感が魅力です。
こうして、シャープさが際立つミドルノートがわりと長く続いていきます。
ラストノートではパチョリがラグジュアリー感を、トンカビーンとトルーバルサムが温かく全体を包み込み、まるで「最後には許してトゲ(武器)をしまい、全てを許す」かのようなエンドロールを思わせます。
そして消えかかる頃には、ハッピーエンドのように甘い果実の香り立ちがそっと残ります。
重くもなく軽くもない、澄んだ華やかさに、ほんの少しの背徳感。
薔薇の花のスパイシーな面やふくよかな面、アロマのようなニュアンスなど、全てが入った香り。
「理想の薔薇園の香り」を追求して出来上がったような、薔薇に求められる全ての要素を詰め込んだオードパルファムです。
フォーマルなシーンに良く似合う

出典:『TOMFORD(トム・フォード)』ビューティー・公式インスタグラムより
「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」は『TOMFORD(トム・フォード)』の他のフレグランスと同様、フォーマルなシーンに大変よく似合います。
世の中にはローズ香水が多く存在しますが、「毎日まとえる香り」と、「テンポラリーにまとう香り」に分かれると思います。
「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」は間違いなく後者です。
香りがそこまで強くないのに、存在感が抜群なためファッションより目立ってしまう可能性があるからです。
『TOM FORD(トム・フォード)』のフレグランス愛好家にはもちろんお勧めの香りですが、そうでない方でしたら、実は40代前後の男女に是非ともまとっていただきたいフレグランスです。
大人の男性のスーツ姿から「ROSEPRICK(ローズ・プリック)」が香ってきたらまろみとエレガントさが増強されますし、女性でしたら「本物のローズ香水をまとう、“知っている人”」との印象を受けるでしょう。
「ROSE PRICK(ローズ・プリック)」の本来の意味である「薔薇の一刺し」をかみ砕いて解釈できるような豊かな経験のある方にこそ、この香りはお似合いになると思います。
季節的には、トレンチコートが羽織れるような、少し肌寒い春か秋がお勧めです。
もし酸味がキツいと感じる場合は、膝裏や足首など、低めの位置につけてみてください。
鼻まで香りが上ってくるまでに角が取れ、まろやかな広がりを感じることができます。
まとめ
冒頭で述べた『ヘリオガバルスの薔薇』の絵画と「ROSEPRICK(ローズ・プリック)」の世界観は驚くほど一致しています。
完成度が高く、高貴で美しいのにちょっとした「攻撃性」を含んでいます。
そしてそのどれもが均等にバランスを保っていて、崩れそうになる一歩手前で見事に「善」として調和しているのです。
これほど一筋縄ではいかないローズ香水もなかなかないものです。
TOM FORD(トム・フォード)自身が「理想のローズの香り」として世に送り出した「ROSEPRICK(ローズ・プリック)」。
彼自身を投影した作品と言えるかもしれませんね。
極上の素材だけが持つエネルギーを、確かな技術とセンスで調香した、成功者の放つ「凛」としたオーラと痛みを閉じ込めた、素晴らしい一本です。

