2006年スウェーデンのストックホルムで誕生した『BYREDO(バイレード)』。
創設者のベン・ゴーラム氏は、インド人の母とカナダ人の父を持ち、スウェーデンで育ちました。
日常的に3つの異なる文化に触れることで、彼の感性はアーティスティックなものに成長し、次第にクリエイターとしての頭角を現わしていきます。
ストックホルム美術大学でアートを学んだ後、有名調香師のピエール・ウルフやオリヴィエ・ジャコベッティと出会い、香水の世界に魅了されていきました。
香水の知識が全くなかったにも関わらず、ゴーラム氏の作る香りは独創的で大変ユニーク。
世界の香水評論家たちを唸らせるほどの素晴らしい香水を数多く輩出し、今やファッショニスタたちの間で“マストハブ”なアイテムの一つと言われています。
『BYREDO(バイレード)』の決まり事を設けない自由な創作スタイルは、既存のフレグランスブランドと一線を画すところでもあります。
ゴーラム氏にとって、国や文化に線引きすることはもはや無意味なのでしょう。
そのオープンマインドな姿勢に加え、“芸術が国境を飛び越える”ことを身をもって体現しているのです。
今回は、そんな時代の最先端を行くブランド『BYREDO(バイレード)』で一番人気の香り「GYPSYWATER(ジプシー・ウォーター)」をご紹介したいと思います。
理想郷を求めて旅を続ける、流浪の民「ロマ」をコンセプトに作られた、温かな香りの魅力をどこよりも詳しく解説します。
その人の肌の匂いを引き立てるスキン・セント

GYPSY WATER(ジプシー・ウォーター)オードパルファム
トップノート:ベルガモット、ジュニパーベリー、レモン、ペッパー
ミドルノート:インセンス、オリス、パインニードル
ラストノート:アンバー、サンダルウッド、バニラ
発表年:2008年
調香師:ジェローム・エピネット
対象性別:ユニセックス
『BYREDO(バイレード)』の「GYPSYWATER(ジプシー・ウォーター)」は、おそらく最も穏やかなウッディ&バニラ香水と言えるでしょう。
ウッディもバニラも、“心が落ち着く香り”として好まれる香料なのですが、「GYPSYWATER(ジプシー・ウォーター)」は頭一つ抜きんでた素晴らしい調合です。
気になる全体の構成はこちらです。
まず、“吹き抜ける風”のようなトップノート。
ベルガモット、レモンといった柑橘系がパーンと鼻を突き抜け、同時にメープルシロップのような甘みもほんの少し感じられます。
そよ風ではなく、目の前を吹き抜ける、力強い風のようなイメージです。
美味しそうなシトラスの香りが風とともに通り過ぎていくのですが、あまりにも良い香りなのでその後を追いたくなります。
このトップノートは、爽やか、リラックス、というより何か物語が始まるような、異世界へ迷い込んだかのような、“いざなわれる”感が否めない香り。
これから大陸へと旅に出る「ロマの民」に仲間入りしたかのようです。

出典:『BYREDO(バイレード)』公式インスタグラムより
もし『BYREDO(バイレード)』が凡庸なフレグランスメゾンだったのなら、ミドルノートにはフローラルを持ってきていたところでしょう。
しかしここでは、インセンス(お香)の香りがメインです。
これが『BYREDO(バイレード)』の素晴らしいところです。もうラストノート?と思わせる大胆な構成で、どこか“インドの寺院”を彷彿としたサンクチュアリな香り。
このミドルノートは大変心が落ち着きます。
オリス(アイリス)のパウダリーさも混じっているためか、その聖水のようだったイメージの香りが少し柔和され、より温かく、人肌めいた感覚に。
不思議にもワイルドな南アジア系の香りは、西欧のフィルターを通すとたちまち洗練された印象に変わります。
素晴らしいミドルノートの後も感動はまだ続きます。
ラストノートが消えかかる瞬間のサンダルウッドが大仕事をします。
自分の肌の香りと混じり合う、3つの香料のバランスが完璧です。何とも言えない、甘く切ない残り香が実に優雅で、本当に感じ入ってしまう幕引きです。
人間がもともと持っている動物的なアンバーの匂いと「GYPSYWATER(ジプシー・ウォーター)」のラストノートの相性がとても良いのだと思います。
まとう人の香りを引き立たせる「スキン・セント」の役割を持っていると言えるでしょう。
「GYPSY WATER(ジプシー・ウォーター)」の理想的なまとい方

香水を試す際、ムエット(試香紙)もしくは手首の上にのせてその香りを確めます。
香水によってはムエットの香りがそのまま肌の上でも香ることがありますが、「GYPSYWATER(ジプシー・ウォーター)」は大化けするフレグランスです。
この香水には体温が必要なのです。
「GYPSY WATER(ジプシー・ウォーター)」の要、インセンスとサンダルウッドは人肌と入り混じることで匂い立ち、心地よい香りに変わります。
むしろ、体温の高い人の方がこのウッディ&バニラ調の香水をより綺麗に香らせることができるでしょう。
肌馴染みが良くて、“自然に根付いた”ような厳かな香りが魅力の「GYPSYWATER(ジプシー・ウォーター)」は、ひとり物思いにふけったり、瞑想したい時に隣に置きたくなります。
先に、「GYPSY WATER(ジプシー・ウォーター)」は流浪の民「ロマ」をコンセプトに作られた香りと述べましたが、この香りは、ジプシーという存在の迫害と差別の歴史の重みよりも、自然に寄り添う「ロマ」の無垢なスピリットを思い描いています。
エキゾチックな要素がありがならも、優雅さや品の良さがあるのできちんとしたシーンにも似合います。
年齢、季節問わず、どんな世代の方でもお似合いになります。
またこの香りの良さは男女の垣根、人種の垣根を超えて広く理解していただけることでしょう。

カッコいい、キュート、リラックス、爽やか、ユニセックスといった、これまでの香水の“カテゴライズ”には当てはまらない香りでもあります。
肩書きを外して、人間にとって必要な最低限の物だけで生きてゆく。
しかしそれがかえって精神の豊かさを与えてくれ、“生きている”感覚で胸が満たされる。
そんな、大自然と対峙する遊牧民「ロマ」を体現したような香り。
ネガティブな要素が一切存在しない、全ての人が“今”を生きたくなる、素晴らしいフレグランスです。
まとめ
香水上級者の方も、香水慣れしていない方も、どなたも安心して身にまとえる「GYPSYWATER(ジプシー・ウォーター)」。
ジプシーという複雑でセンシティブなコンセプトながらも、人生を賛美したくなるような温かい香りに仕上げているところがさすが『BYREDO(バイレード)』です。
他のフレグランスメゾンにはないようなイメージや構成の香水があること、さらに、ドラマ性のある香りという点でこれからも大注目したいブランド。
傑作揃いの『BYREDO(バイレード)』でも「GYPSYWATER(ジプシー・ウォーター)」はぜひ側に置いておきたい1本です。
決して安価ではないのですが、絶対リピートするであろう「珠玉のフレグランス」として間違いありません。
想像力が膨らむ『BYREDO(バイレード)』の香り。
「香水」としての香りのみならず、その背景のストーリーまでをも含めて香りを楽しむことができれば素敵ですね。
「GYPSY WATER(ジプシー・ウォーター)」の粋な香りは、きっと皆さまの感性をくすぐるはずですよ。


